花巻の市営駐車場に車を止めた、そこは「なはんプラザ」の直近の駐車場である。この「なはんプラザ」の裏手がかつての軽便鉄道の花巻駅跡である。ここから約3km先の似内まで歩いて探索することにする。雨が降っていたらこれは不可能だった。空を見上げると黒い雲があちこちにあるが雨は落ちてこない、青空さえ見える。直射は無く歩くのに絶好の条件となった。旧花巻駅を出た軽便鉄道は現在の釜石線とは逆にまず、南進しNTT花巻支店裏で急カーブを右折し、旧国道4号線にかかる「さいわい橋」を渡る。旧花巻軽便鉄道本社さいわい橋この橋を渡りきると右に一風変わった建物が見える。 市森林組合の建物でここにはかつて軽便鉄道本社があったところだ。左はかつての花巻女学校である。(前世探訪1で紹介)そして斜め右にあるのが「鳥谷ヶ崎駅」跡である。(前回の旅ではそれとは知らずに見ていた)そのまま道なりに進むと左に上がっていく小道がある。ここを上がれば花巻小学校である。軽便はこのまま西進し、右に弧を描きながら少しずつ下ってゆく。 鳥谷ヶ崎神社裏で道が二又に分かれていた。右は良く整備された道で左は道幅も狭く坂も急であった。軽便はここから左に折れ、似内に向けてほぼ一直線に伸びていたのだ。坂を下っていくと左側に「猿ヶ石川」と言う建設省の管理境界を示す石柱が立っていた。現在、その川はここから1km程北に行った北上川分かれる支流なのだがなぜここにこの石柱があるのかわからなかった。石柱だけが取り残されて建っているのがどこかユーモラスだった。さらに行くと北上川支流の「後川」に遮られた。後川を横切る 軽便軌道跡舗装もされていない、往時を彷彿とさせる風景かつてはここに鉄橋が架かっていたのであろうが完全に改修工事を施されていて跡形もなかった。すぐ脇に国道4号線が走っているのでその橋を渡って対岸に出てみる。するとかつての軌道跡と思われる砂利道が残されていた。今まで見た中で一番細い部分である。恐らくこの2m半くらいの幅がオリジナルの軌道の幅であったと推測される。
軌道は国道4号を横断し緩く右にカーブしながら直進し、イギリス海岸の脇を抜けていく。 そして瀬川を渡る。現在「小舟渡橋」という橋が架かっているがかつての面影の微塵も感じられない。やがて大きな陸橋が見えてくる。これは国道4号の花巻バイパスである。今の国道も花巻中心からはずして新設されたが、さらに外へと移されるようだ。この陸橋付近からはさらに道路の改修がすすんでいて軌道跡の面影を感じるのは絶望的に思えた。すると、微かにコトンコトンと列車の音が聞こえた、釜石線の音だった。気を取り直して陸橋をくぐると真新しい道が右に緩いカーブを描いて走っている。そのカーブの根元から横にその道より少し細い道路が枝分かれしてその道を少し行って振り返ると、この道と今まで歩いてきた新道が一直線になっていることが確認できた。その道を少し行くとさらに道が枝分かれしていた。似内駅先で軌道は現在の路線へと吸い込まれていく新道が「幅」を利かせている 軌道は左へその道は未舗装の幅2メートルの道で右カーブを描きながら続いていた。その道に入るとカーブの先にぽつんと信号機が浮かんで見えた。この道こそ軌道跡だと確信して進んでいく。左手に現在の「似内」の駅が畑の向こうに見えた。少しずつ軌道跡は現在の釜石線に近づいていく。
そして第7似内踏切から先で軌道跡は釜石線の敷地に吸い込まれていった。
似内の駅へ着いたときは14時20分。花巻行きの列車は14時05分の後、なんと16時57分であった。ここからまた歩いて帰るのも大変だったので、逆方向の土沢まで戻りそこで上り快速電車をつかまえたらどうだろうかと思いついた。それでも1時間近くは待つのだが・・。36分に下り列車があったのでそれに乗ることに決めた。2輌編成の車両が左右に車体を揺らしながら入ってきた。ここでは降りる客がいないと扉は開かない。乗る側が車両の外にあるボタンを押すと扉はそこだけ開く。そして中に入ったら閉めるボタンを押すのだ。慣れないとかなり戸惑う。乗ってすぐに「次は新花巻〜」のアナウンスがあった。僕はその途端に考えを変えた。新花巻で降りてバスかタクシーで花巻へ帰れば良い。すぐに列車を降りた。するとバスはすぐにやって来た。バスは宮沢賢治記念館を経由して花巻へ向かった。
花巻に着くとまだ、3時半だったので花巻図書館に寄って行くことにした。郷土資料室へ入ると以前とは様子が違っていた。どうも資料の整理をしているらしく八木の本が容易に見つからない。八木の本ではなく、軽便鉄道の本が見つかった。それは非売品の本で軽便鉄道が開通した記念に沿線を紹介した小さな本であった。花巻駅付近の観光案内なども記されていた。それが今日歩いてきた記憶にダブってしまい、僕はあたかもこの本が出たそのときにこれを読んでいるかのようにさえ思えてしまった。
既に5時近くになっていたので宿へ向かった。志度平温泉旅館である。前回泊まった志度平ホテルと経営は同じであるがこちらは自炊部もあり、相当古い。数年のうちに建替えになるそうであるので良いタイミングであった。料理はホテルの方に比べれば劣るものだった。とは言っても値段が半額近いので無理も無い。今回は随分と安く上げたのだ。一泊二食で五千円なのだ。食事を済ませた後は早々に寝ることにした。と言うのも僕は一人きりで露天風呂に浸かりたかったのだ。思い通りに夜中3時に起き、露天風呂を独り占めして堪能することができた。旅館は豊沢川に沿って建てられており、露天風呂の眼下には豊沢川が流れている。向こう岸は切り立った崖でその岩肌がライトに照らされて闇夜に浮き上がって見えるのだ。。 |