2002年3月30日(土)6時30分
その異動を目前にして僕は花巻駅に到着した。外に出て寒かったらどうしようと思った。仕事の帰りにそのまま来てしまったので下着の用意しかしていなかったのだ。しかし花巻の空気は気を引き締める程度の程よい寒さであった。これならこのまま行ける。すべてがトントン進んでしまうのが嬉しかった。(この後のエピソードが前世探訪3に載っている。これを書いている時点では重要では無いと思いカットしていた。)
ホテルのフロントに楽器を預け図書館までの道のりを訪ねた。ロビーで流されているテレビからは同じ番組なのだが見たことの無いアナウンサーが東北地方の天気を伝えていた。花巻のバス乗り場には一昔前の型の古いバスばかりが停車していた。乗り込んだのは僕を含めて2人であった。僕が子供の頃に乗ったようなそんなバス。誰1人として乗り降りすることなく花巻文化会館前に着いた。まだ9時前だった。都内で言えば区立図書館の分室程度の小さい図書館であった。しかし、彼の著作はここにあるはずなのだ。 9時の開館と同時に一番乗りした僕はミーティング中の職員の横を通って書架の間に入っていった。
懐かしい親しみのある方言が優しく耳に入ってくる。僕は東京で生まれたがなんとも懐かしい気分にさせてくれるのだ。例えそれがミーティングの事務的な話であっても。![花巻市図書館](images/reinca/lib.gif)
それにしても彼の著作は一向に現われなかった。 そう簡単に見つかっては面白くもないだろうなどと楽しみながら書架の間を行ったり来たりしていた。 しかし見つけることが出来ない。まさかここまで来て見ることが出来ないはずは無い。八木英三はきっと僕に読ませたいに違いないのだから。必ず見つかると言う妙な自信だけがあった。
1時間程してついに僕は職員の女性に尋ねた。(僕は人に物を尋ねるのに抵抗がある性質でずっと尋ねようか迷っていた)彼の本はすべて書庫に納められていることがわかった。古いせいだろう。おそらく状態が悪いに違いなかった。
女性は古びた小さな本を4冊積み上げて持ってきてくれた。いよいよ彼の本との対面である。 |